「ちょっと来て」と母が私を二階に誘うときは決まって何か買物をした時だった。今度は何をと、半ば呆れながらも興味津々、私も母の後ろから階段を上がると、和箪笥の前にま新しい畳紙に入った帯があった。まだ仕付け糸がついたままの着物や帯がいくつもあるのにと思ったが、母は留袖にも訪問着にも結べるからと嬉しそうに広げて見せる。身に着けることよりも買うことが楽しみだったのだろう。母が亡くなり、姪の結婚式で母が残した着物と帯を着付けてもらった時、係の人が「良くお似合いですね、」とほめてくれた。もしかしたら、着物も帯も私のために選んでくれていたのだろうか。
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